「フッ…四々綺…お前の蹴り…悪く、無かったぜ…ギクッ」
「甲斐野ォォォ!ギクッじゃないぃぃぃ!間違えてるぅぅぅ!」

 阿呆はどこまで行っても阿呆だった。何でこんな奴とここまで仲が良くなったのか我ながら不思議な物である。人の縁とは魔術以上に奥が深い。

 そんな一騒動の後、担任教師が教室に入って来た事で授業が始まる。…そして俺にとっては、最も警戒するべき時間である。



 例えば教室の窓が開いた瞬間、俺は鉛筆を落としたフリをして頭を下げる。先程俺の頭があった場所を目掛けて飛んで来たのは一本の針。僅かに床が溶解している事から酸でも塗っていたのだろう。恐ろしい。

 例えば移動教室。前方から歩いて来たスーツの男が俺にぶつかって逃げて行く。俺の指には叩き折られたナイフが挟まっている。あの男はナイフを俺に刺すつもりでぶつかって来た訳だ。恐ろしい。

 例えば昼食。外にレジャーシートを広げて弁当箱を開けると、俺の弁当が何時の間にか微妙に変化している。タコさんウィンナーの足が減っている。刻みノリが横に0.2ミリ太くなっている。…試しに足元に群がっているアリ共に食わせてみると動かなくなった。毒…いや、呪いか?魔術師まで俺を狙っているのか。恐ろしい。まぁ結局全部食った。その辺の毒や呪いで身体に支障を来す程、俺の体はヤワでは無いのだ。

 そして例えば下校時間。戦闘機が上空を飛んでいる。流石に洒落にならないので空間指定式爆破魔法を使って跡形もなく消し去ってやった。強化された俺の視力が捉えたのは絶望したパイロットの顔。ザマァミロ。



 …とまぁこの様に、何時の世も天才とは忌み嫌われる者である。何時の間にか下校時間になっていた事はさておき、こうやって俺が家の外に出る時は常に命を狙われる。私怨、怨恨、仕事etc.

 学校の時間は俺にとって気を付けなければいけない戦闘時間。
 家の前でも落とし穴(剣山付き)が用意されていたが興味無い。俺は堂々と体重を零にしてその上を渡った。



 一ツだけ言わせて貰おう。俺は高校生としては普通だ。人間という個として見れば異常になっているだけだ。
 天才高校生、天災魔術師。それが俺、四々綺 明神の正体である。