俺は何時ものように愛想笑いを浮かべて自分の席へと座った。手持ちの小説を読んでいるのは周囲への「今は話しかけるな」というサインだ。この時ばかりは友人、時には教師すらも声を中々かけて来ない。
 まぁ周囲との関わりを断つ必要も無いので、時間的に頃合いを付けると俺は自動的に小説を閉じている。…ちなみに読んでいるのは全てライトノベルと呼ばれるモノだ。最近は異界召喚にハマっている。…既視感?何の事を言っているのだね。


「オォーッス!オラ甲斐野!皆気分は上々甲斐!?なんちゃって。アッハハハハハ!」

 来やがった。
 

教室の静寂をぶち壊したのは先程も名を出しただろう、教頭弄りの天才。甲斐野 進(カイノ ススム)だ。
 髪は薄く茶色に染まっているが、本人曰くコレは地毛だそうだ。染髪を良く思わない風習(禁止されてはいない)のあるこの高校でこの髪色。一部の生徒からは相当な嫌われ方をしている。…まぁ本人はその事を対して気にしていないようなのだが。

 甲斐野はキョロキョロと周囲を見渡すと一目散に俺の所へ駆け寄って来る。俺は小説を机の中に収納し、迎撃体勢を取る。

 互いの距離は7m程。

「し・し・ぎっー!おっは…」

 右の拳を握りしめ、右足を半歩程後ろにズラす。呼吸法により、(ぶっちゃけ魔力を使用しただけ)何時もより微かに体感時間が遅くなる。5m…3m…来る!
 
「よぉぉおおおおおおおぶべがらばッ!!?」

 一瞬とも呼べる僅かな時間で、飛び付いて来た阿呆の顎を右の拳で殴り上げる。ガードも間に合わぬ必殺の一撃。…だが、この程度で止まる奴ではない。すかさず追撃に右の足を軸とした左足の回し蹴りを叩き込む…!

 バキッ!…ズドン!

 一撃目の拳で意識を刈り取り、二撃目の蹴りで勢いを殺す。我ながら惚れ惚れする技のキレだ。やはり天才たる俺に失敗は有り得なかった。


 2m程吹き飛んだ甲斐野。周りは俺の天才ぶりに感嘆し惜しみない拍手を送る。この教室に甲斐野を哀れむ奴など居ないのだ。ここで俺はフォローを入れる。

「か、甲斐野、大丈夫!?ごめん、ちょっとやり過ぎたかな!?」

 飴と鞭は魔術が使われている時代から有効なのである。それは友人関係においても例外では無い。