暗い 黒い 空間。
 私は何が何だか分からなかった…私自身が誰なのかも分からなかった。唯一自分に関する記憶で与えられたのは「四々綺 止華(シシキ トドカ)という名前だけ。
 知識は持っている。だけど記憶は一切無い。前に立っている影のような真っ黒けの人に話しかけても、「お前は一人じゃない」という返事が返ってくるのみ。
 私は徐々に広がる光に呑まれるようにして、その空間から消え去って行った――。



「ッ…う…」
 目を開けると、白い壁、天井が私を包み込むようにして広がっている。鎧姿なのも、自分の知識が語っている。コレは私が作り出した魔装、「天(アマツ)」…ベッドの横に立てかけられた剣は闇と聖の属性を付加した両極魔剣、「ヨミオクリ」…。…私は一体コレをどうやって作―――

「―ぁぐぅッ…!?」

 頭が痛い。まるで思い出すのを拒んでいるように…。

「…ハぁッ…ハぁッ……」

 一瞬だけ激しい痛みが止華の頭を襲ったが、痛みは案外直ぐに引いた。…とりあえず、私がする事は此処が何処なのか知る事だろう。ベッドから立ち上がり、兜を被り帯剣する。木製の戸を開け、廊下らしき通路に出るが…人一人の姿も無い。そして廊下に10m間隔で設置されている窓から景色を眺めてみた。

 …城門、平原、城下町。所々が破損している景色、それは人々の手によって元に戻されようとしていた。―――知識が語る。アレは“敵”が壊したのだと。
「…とりあえず、出てみよう。」

 危険は無いだろうと知識から情報を引き出し、私は服(魔法で創った。便利だと思う)に着替え、下の階へと降りる事にした。

 数分後、彼女の居た部屋を必死で捜索する兵士団長の姿を城の人間が目撃していた。





 アルスアインド。
 国旗の下にはそう書かれている。文字は理解出来るようだ。見張り一つ無い扉を不可思議に思いながら、止華は外に出た。

 眩い日の光が目を刺す。黒いワンピースを着た事で全身真っ黒になった止華だが、街の人間を改めて見ると青い髪や緑の髪の人間が大半。少なくとも黒い髪の人間は一人たりとも居なかった。