惣本さんに、「行きましょう」と彼女は手を伸ばす。
翻した背中。
一度もあたしを見なかったのに、何故か琴音さんは、ほんの一瞬だけ、すれ違い様に、
あたしに、笑いかけた。
それは、
あの身についた有無を言わせないものでもなくて、優雅な笑みでもなくて、
少し悲しそうな、彼女本来の、ものだと、
何故あたしはそう思ったんだろう。
一緒に落として言った言葉が耳から離れない。
『愁ちゃんをよろしくね』
こんな綺麗で、鮮やかな人知らない。
かなうわけ、ないじゃない。
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