「あなたは何か勘違いしてるわ」
トーンの変わらない琴音さんの声は臆する事ない。天童さんがキと切れ長の瞳を向ける。
「愁哉さんに婚約解消して頂いたのは、支社で不振な動きがあったのを内密に調査してもらう為ですの。その方が彼も動きやすいですし。顧客の情報が流れていると上にも聞こえてますわ。」
スラスラとまるで物語を語るように、子供に言い聞かせるような、そんな口調。
「…心当たり、おありでしょう?」
もう一度、まるで一輪の花が咲くように笑うと、法的手段なんて、生ぬるい事しませんわよと軽く囁いて、琴音さんはあの、有無を言わせない笑みを向けた。

