「午前四時四十四分……ご臨終です……ってあれ……?」

 医師が、沈痛な顔をして、病室から廊下に出たとたん、その場にそぐわない間抜けな声を出した。

「どうしたんですか? 先生?」

 病室内で患者が亡くなる直前まで、医師と世話をしていた看護師が怪訝そうな顔をする。

「いや、さっきまで大勢の人の気配がしていたから、この患者さんの家族が最後の別れに集まっていたのかと……でも、扉を開けてみると誰もいないんだ」

「この患者さんに家族? そんなのいませんよ」

 看護師が、点滴や酸素マスクを外しながら言った。

「この患者さんは、三十年ほど前、四連続殺人を起こして以来、家族に縁を切られて天涯孤独なんですよ。
 事件自体は精神鑑定で、無罪になった、と聞いてますけれど……」

「ふうん」


 ………










 医師と、看護婦は知らなかった。












 今、まさに亡くなった患者が『あの世』で待ち構えていた四人と、通りすがりの一人に囲まれて悲鳴をあげている事を。















 彼らの夜は、明けそうにない。










 永遠に。 


     (了)