彼は、満面の笑みを浮かべて病室の前を行ったり来たりしていた。

 もう、孫が二、三人、いてもおかしくない初老の男性だった。

 新しくこの世界にやってくる者を迎えることを考えると、自然と笑みがこぼれてくる。

「まだか……まだか。早く、出て来い」

 男は、もうずっとこの日を心待ちにしていたのだ。

 彼が、まるで動物園の熊のようにうろうろしていると、スーツを着た青年が走ってきた。

「す、すみませんお義父さん。遅くなりました……まだですか?」

「まだなんだよ、一郎君。でも、もうすぐ……」

 男がそこまで言いかけたとき、向こうからまた数人やってきた。

「これはこれは田中さんに、斉藤さん。山田さんまで……皆おそろいで、こんなところまでわざわざ……」

 男が、笑顔で会釈をすると、後からやってきた人々は、口々に話しだした。

「いやいや、わたしたちも、いてもたってもいられなくて、見にきたんですよぅ」

「あたしも、この日が来るのを待ってたのよ」

「いや、私は関係ないんですが、たまたま近くにいたので、寄ってみただけなんです……おはずかしい」

「とんでもないです、山田さん。こういった事は、年長者の方がいてくださると、本当に心強くて、助かります。関係ないなんておっしゃらないでください」

 男が、山田の手を握らんばかりに感激していると、一郎が冷静な声で言った。

「お義父さん。どうやら、そろそろみたいですよ……」










 一郎の声に、その場にいた全員が、振り返ったのと同時に。











 病室の扉が開いた。