署で厳重注意を受けた陽平は、俯きながら署から表に出て、少し強い、けれどどこか暖かい春一番に身体を煽られた。


 ふと顔を上げれば、心配そうにこちらを見ている妻と子。
警察から連絡がいったのだろう。


 あれだけ妻に目にもの見せてやりたいと思っていたのが不思議なくらい、打って変わって穏やかな気持ちになっていることに少し戸惑う。


 それはまるで、春一番で全てを拭い去られたような、そんな清々しさも感じていた。


 そう考えると、あの春一番は陽矢だったようにも思えたのだった。


 春風に乗り季節の春が来たと同時に、自分の中にも春を感じた。


 これから陽矢の死がつきまとう生涯を、乗り越えていくのは妻子となのだ。


 妻の不貞の相手は結局わからないままだったが、こうやって迎えに来てくれたくらいにはまだ自分にも可能性がある。
陽平はそう感じた。


そして、冬の終わりと春を感じながら、

妻子と生きていくこの世界を。

陽矢との遥かな世界を、今。


「──見つけた」






【完】