「何があったんですか?」


 静かな空間にひっそりと佇みながら、八重子は呟くように話し始めた。

 そしてようやく、掠れた声は泣き腫らしたからだと風間は気付く。


「あの日、夫に会いに佐藤さんが来た日、私は陽矢くんと遊んでました。

夫は私が陽矢くんを連れて来てしまったことは知ってましたが、榛瀬さんを気に入らない部分があったらしく、特に何も言いませんでした。興味が無かったのかもしれません。

佐藤さんには見つからないようにしてたんですが、うっかり見つかってしまって……

『横領ばかりか誘拐までしているのか』と激しく夫を罵りました。
私は横領のことは知りませんで、酷く驚きましたが、それよりも陽矢くんのことを警察に言われてしまったらと思ったら怖くて怖くて……

私は必死に陽矢くんを帰すから警察には言わないでくれと説き伏せました。

陽矢くんのことはわかってくれましたが、横領のことはそうはいかない、警察に行くと……そして夫はそれをやめさせようと掴みかかりました」