(KS)ハルカナセカイ



 受話器を置いて机を叩いた風間を置き去りにして、捜査員たちは慌ただしく動き始めた。


 課長は風間に檄を飛ばし、追いたてる。


「榛瀬陽平が万が一、自分の子どもを殺したのが佐藤だとわかっていたら花菜が危ない。何人か人をやる。
風間は金田八重子のところへ向かえ」


 それぞれ署を出ていく。

 羽田は既に金田家へのルートを頭に叩き込んでいたらしく、車はスムーズに金田家へと到着した。


 インターフォン越しに八重子の声が聞こえ、しばらくしてドアロックの外れる音がし、構わない身なりで出てきたその女こそが、金田八重子であった。


 居間に通され、ぼそぼそとした言葉をなんとか聞き取るに、お茶うけのないことを詫びているようだ。


 出て来たお茶に口をつけると、茶碗にうっすらと茶渋がついているのが見える。

 生活が困窮しているようではないから、几帳面でないというだけなのか、夫が亡くなったことがショックで手が回らないのだろう。


 風間はゆっくりとテーブルの上で手を組むと、早速八重子に切り出した。


「奥さん、単刀直入に伺います。
一週間ほど前、保育園から榛瀬陽矢くんを連れ出したのはあなたですね?」