事件日当日、和枝は小学校へと和葉を送り出した後、陽矢を保育園へと送って行った。


 それはパートに向かうためではない。
勤務先からは久しぶりに平日の休みが貰えていた。


 和枝は2~3ヶ月に一度、自分のための時間を持つことにしている。


 子ども連れではなかなか入れないようなレストランや映画、芝居やエステなどへ行き、仕事と家事で疲れた心身をリフレッシュさせるためだ。


 この日がちょうどその日で、和枝は前もって連絡していた旧友と落ち合うために、陽矢を保育園へと預けたのだった。


 陽矢も今日は和枝が休みなのだとわかっていて、保育園の玄関でぐずぐずと和枝の足にまとわりつく。
しかし友達に声を掛けられると、笑顔で和枝に手を振った。


 三歳とはいえプライドというものはあるらしい。
友達の前で母べったりな自分は見せたくないのだろう。


 毎度のことながら、かろうじて笑いを堪えて保育士に挨拶をすると、もうこちらのことなんて振り返りもしない陽矢の後頭部を見つめて、微笑んだ。


 それが、元気な陽矢を見た最後だった。