ふるっと頭を振った陽平に、和枝が恐る恐る小さく声を掛けた。


「陽平さん……?」


 いつの間にかベッドふちまで歩いて和枝の顔を見下ろしていたことに陽平は気付く。


 見上げる和枝は力なく陽平を見ていた。
そんな仕草さえ、たおやかで美しく見える。

 その美しさは子どもを二人産んでも衰えることはなく、今も陽矢の死により霞むどころかより一層美しさを増していた。


 黙りこくった陽平をそっと訝しげに見る和枝の黒目がちな瞳と目が合い、陽平は喉にからまった唾を軽い咳払いで飛ばす。


 そして和枝の表情をじっと見つめながら、刑事が来て行ったことを告げた。


「刑事さんが……?」


「そうだ。
どうやら佐藤と金田が殺されたらしい」


 もしどちらかと何かしらあったというなら、夫の同僚というリアクション以上の動揺が走るはず。
それを見逃さないようにと、鋭く目を光らせた。


 しかし陽平の思惑とは裏腹に、和枝は泣き腫らした目を二三度瞬かせただけで、特に大きなショックを受けた様子はなかった。


──まだわからない。
陽矢への悲しみで麻痺しているのかもしれない。