「あぁ……」
焦点の定まらない漆黒の目をした女の、体の奥底から出たような溜め息に、前に座る男のうちの一人が、いたたまれない顔をしながら口を切った。
「……お力になれず、申し訳ございません」
そう言って頭を下げた中年の男より、女の隣にいる男は十は若く見える。
だが開いた口調は重く掠れ、まるで老人のようであった。
「頭を上げて下さい、刑事さん。
あなたがたのせいじゃない」
「榛瀬(はるせ)さん……」
痛々しい二人の姿に、刑事である風間(かざま)は掛ける言葉がなかった。
この家に入ったときから感じた虚ろな寒さは、今朝がた降った雪のせいではなく、この二人の灯火であったかけがえのないぬくもりが去ってしまったからなのかもしれない。
先日来たときはまだ、希望という光が僅かながら家を照らしていたけれど、風間が今しがたその光を掻き消してしまった。
「それで、陽矢(はるや)は……?」
ぼそりとした呟きを一瞬聞き逃した風間は、隣にいた若手の刑事が手帳を開いて答えるのを、口をつぐんで黙って見ていた。