「おぅ、真琴」


池脇家の玄関で呼び止めらる。池脇家なので、そこに立っているのは勿論、正樹なのだが。


「やだ、なんて格好してんのよ‼」


慌てて顔を背ける。


パンツ一丁の正樹から。


「なんてもなんも、自分の家やからフルチンでもおかしないやろ。見たいんか?フルチン見たいんか?」


「目が潰れるわよ!やだ、帰る‼」


玄関から飛び出したわたしを、シャツを引っかけた正樹が追いかけてきた。


「そういやアイツから聞いたで」

「アイツ?」

「あの[モデル・天邪鬼]や。好きな先輩のために痩せたんやてな」


思わぬ言葉に、照れ隠しで横を向いた。ように思わせておき、歯軋りしながら[モデル・しゃべくり女]を呪う。


「めちゃ痩せたんやてな?俺はおかんの仕事見てきてるから、分かんねん。太ることは、鼻くそほじるくらい簡単やけど、痩せるんは死ぬほど難しいて」


比喩が汚いが、その通りなので聞き入る。


「そんなけ痩せるんは、そんなけ相手のことが好きな証拠やな」


いつもの勢いが消え、とても優しい声だった。


だからわたしは思った。


夏美のことを勧めるのは、今‼ではないか?


わたしの気持ちが揺るがないことを知った正樹の気持ちに付け入るのなら今が…。


「せやけど、それがなんやっちゅう話やで!」