「美鈴さん」

「素敵な結婚式だった。一生、忘れないから。ほら、お礼を言いなさいよ」


そう前に突き飛ばされた一馬。


「ま、サンキュウな」


照れ臭そうに言った。


一馬の「サンキュウ」は心からの「ありがとう」だ。


「それでね、2人で話し合ったんだけど、赤ちゃんの名前、あなたの名前を貰ってもいい?


「え、でも、わたしなんか…」


「あなたの名前だから欲しいの。きっと、あなたみたいな明るくて真っ直ぐな子に育つから。私は、琴って響きが好きなんだけど、この人は真琴の真がいいんだって。だから、真琴になるかもしれないわ」


クスっと笑い、女の子に戻る美鈴。


「ねぇ、ブーケトスしないの?」


夏美の提案に、目の色を輝かせた女子たちが集まる。


俺が取ったんねん!と口走った正樹も、一斉に睨まれれば、首をすぼめておとなしくしているしかない。


「じゃ、いくわよ」


教壇に上がった花嫁は、


背中を向けて軽やかにブーケを放った。


(え、こっちくる?)


わたしだって欲しいが、貪欲さを全面に出すのも恥ずかしく、輪の隅っこに立っていた。


恐らく、美鈴が狙ったのではないだろうか。背伸びすることもなく、この腕の中に、ブーケが届く…。


「キャッ‼」


思い切り突き飛ばされた床に突っ伏したあと、強欲むき出しの女子に文句を言おうと…。


「野崎先生…」


ブーケを抱きしめた野崎。


「先生、もう神頼みなの‼」