「なんの匂い?」


高くて小さな鼻をクンクンさせて夏美が言った。


「いい匂いでしょ?お腹空かない?」


「でも私…ダイエット中だから」


「一緒に歩けばいいだけよ!元気がない時は、美味しいもの食べれば元気になるから。人間って、意外と単純に出来てるのよ」


そう笑って、


匂いの元を注文する。


「おじさん!美味しいやつ四人前お願い‼」


元気のいいオーダーに、威勢よく返事をするのは、ネジったハチマキがトレードマークの、と説明すれば、香ばしい匂いの正体は分かるであろう。


「ちょっと細井さん。たこ焼きは別に嫌いじゃないけど、そんなに食べれないわ」


「いいのいいの」


そう笑い、油の音に誘われて、華麗な焼きさばきを眺めていると、角の向こうから、


「なんやねん!押すな言うとるやろ‼」


賑やかな声が聞こえ、


しかめっ面の正樹と、その匂いに自然と恍惚な笑みを浮かべている太志がやってきた。


ふと見ると、夏美はプイッと横を向く。


「おぅ、真琴。なんやねん、こいつ、練習中にいきなり用事あるでて。お、お前もおったんか?」


そう聞かれた夏美は、


「いちゃ悪い?」