グラウンドで解散をし、鞄を取りに教室に戻った。


「あれ、石川さん、撮影は?」


席についている、夏美の細い背中に尋ねる。


今の部が立ち上がったのは、100%夏美のお陰だ。もちろん、今日のウォーキングも誘ったのだが、ドラマの撮影で先に帰った。はずだった。


「なんとかダイエット部、一日目が無事に終わったわよ。みんな、ついてきてくれるみたい」


「そう」


「野崎先生がさ、一番、典型的なダイエット女子で笑ったわよ。絶対、今、保健室で体重計ってるって。見にいかない?」


「いい」


「どうかしたの?」


その時はじめて、夏美の肩が揺れていることに気付いた。


「もう今度は騙されないからね。どうせまた演技でしょ?」


そう言って夏美の前に回ると、やはり泣いていた。だが、今回は、泣き顔を見られまいと、顔を背ける。


「なんの役よ?泣くのを見られたくない役?」


「違うわよ」


鼻を啜るのも、
様になっている。


「なんだか上手くなったわね。リアルっていうか…え、やだ、ホントに泣いてるの?」


「役を下ろされたのよ。下手なんだって。モデルの仕事もうまくいってないし。あ、でも別の撮影あるんだ。悲しくても笑わないとね」


そう涙目で笑ってみせる。


その顔は、芝居などではない、真の表情だった。