な、殴られる?


首を縮こませて、廊下の隅までついていくと、こちらを振り返ることもなく、その華奢な肩が揺れている。


怒りだ。


いつぞや罵った怒りを、今頃になってやり返すとは‼


「ちょっと石川さん、なんなのよ?」


ここは強気に出る作戦にしてみたが、石川夏美が振り返ると、作戦も中止せざるをえなくなった。


「ちょ、どうしたのよ?」


頬から零れていく涙。


夏美は泣いていた。


まるで女優みたいね、


嘘臭いけど、と付け足す。


「どうしたらいいの?」


ようやく口を開いた夏美。


「どうしたらいい?」


「なにを?」


「どうしたら、細井さんみたいになれるの?」


「はぃ?」


「あなたばっかりじゃない!あの2人だって私に見向きもしないで、あなたにベッタリで。朝倉先輩だって、やっぱりあなたと仲いいみたいだし。別に朝倉先輩はもうどうでもいいの。一体あなたのなにがそんなにいいか聞いてるの!」


「それをわたしに答えろと?」


「そうよ!勿体ぶってないで教えなさいよ!」