慣れた手つきで男の手首を引っ掴むと、


「この人、痴漢です‼」


高々と宣言し、次の駅で引きずり下ろし、駅員に引き渡…、


せない‼


いつもなら、怒りに突き動かされるのに。


そうやって何度も助けた実績も、いざ自分が被害者となれば、振り返ることすらできないのだ。


それどころか、


・声も出ない
・動けない
・涙がでそう
・まだ触ってる!


細かい虫が体を這い回るような悪寒に、微塵も動けない。


「や、やめ…て」


振り絞った声も、悲しく消えていく。


怖い‼


そう思ったが、そう思ったわたしに気付いた痴漢の手が、今や大胆に動き回る。


そのあからさまな動きに、なんだか無性に腹が立ってきた‼


沸沸と湧き上がる怒り。


その時ふと、真琴の頭に浮かんだのは、


"池脇チエ"だ。


チエの痛烈な関西弁。


それをお見舞いしてやれ‼‼