どうしよう、どうしよう―――そう考えている間に、隣にあった気配が遠ざかった事に気づく。
それから、キュッキュッと床と上履きがこすれる音で察する。

 お礼、言わなきゃ…お礼を―――今言わなきゃ、きっとこの先こうして話すことはなくなる―――。
 息を深く吸い込み、意を決して―――。

「…あ…あのっ!!」

 自分でも驚くくらいの声量と、一緒に勢いよく振り返って東海林さんの姿と向き合う。
東海林さんは足を止めて、ゆっくりと私のほうへと振り返った。

「…どした?」

「…え…っと…あの…」

「………?」

 ゆっくり深呼吸を一度。
手の平の中にあるものを握る…それに勇気を貰うように―――。

「あ…り…がとう…ござい…ました…」

「………」

「見つけて…下さって…それを…あの…わざわざここに…」

 今、言わなきゃ…きっともう…言えない…。

「だから…その…あの―――」

「どういたしまして」

 ―――続けて言おうとした言葉は、東海林さんの柔らかな声音に遮られて、少し逸らしていた視線をふいに正面を向く。
そしたら―――。
 口角を少し上げて、優しい眼差しで私を見ている東海林さんの視線と交わった。
 その表情に息を吸う事を、一瞬忘れてしまう。
胸の奥から徐々に脈が速さを増し打ち始めていく―――。

「お前、そんな声出せんのな」

 恋なんて私には無理って思ってる。

「もう、落とすなよ。大事なものなら尚更」

 でも…ごめんなさい…。
 あなたのこと―――あの時から好きになってしまったんです。

 手の平の中にある、あなたに似せて作ったマスコットを握り締めながら、そう心の中で呟いた―――。