杏と出会って、樹は自分が
こんなにも女々しい奴だった
という事を知った。

『杏を失う・・そう思ったら
 
 俺は俺でいられなくなる』

母親に棄てられ、心から愛した
百合に別れを告げられ
 
まりあとの関係はうまく行く事
は無く、引っ付いたり離れたり
を繰り返し、その他にも
付き合った女性はいたが
長く続くことなど無かった。

まりあが言うように、百合と
別れた後の樹は彼女に囚われて
どこか恋愛に冷めていた。
 
本気になって、また失うことが
怖かった。

相手に、本当の自分自身を
見せないで、自分の領域に踏み
込まれる事を酷く拒んでいた。

そんな樹が杏に出会い

彼女にだけは、自分の全てを
知ってほしいと思った。

『アンは
 貴方だけを愛してる』

百合の言葉が、樹の胸に
突き刺さった

『貴方なんかいらない』

と言う

杏の言葉を掻き消していく。