杏は頭では、樹を信じたい
信じようと無理に結論を出して
みたものの

心は、付いていけない。

この家に残されたままの
まりあの片方のピアスが
杏を捉え、心を掻き乱す。

表には決して見せずに、いつも
のように振舞っているが

ずっと心の中に、樹への不信感
を抱いたままの杏。
  
樹も、そんな杏の想いに
気がついているのか

抱き合っていても
寂しさ、虚しさが樹の心に
積って行く。

部屋中に立ち込める、重い空気

話しかけても、聞いていない杏
  
「ごめん、イツキ
 
 何か言った?」

元々、無口な樹は何も話せなく
なり、首を左右に振るだけ

二人の間に会話は無くなる。
 
楽しみにしていた樹と過ごせる
時はあっという間に過ぎ去って
しまった。

樹は、今日と明日の東京公演を
終えた後
  
また
後半のツアーに出てしまう。