真っ黒な背表紙の本

途端、アナタの体は突然左右からの圧力によって潰れ、視界は真っ暗になり、意識も途切れました。

そして、アナタの立っていた場所にぽとりと、あの真っ黒い背表紙の本が落ちます。

本のページの隙間からは、まるでけだものが涎を垂らすように、あるいは貝の中身が潰れたように赤黒い液体が染み出しましたが……
   、、、、、、、
まあ、インクでしょう。
    、、、
だから、インクは本のページに吸い取られるように染み込んでいきました。
   インク
床に、血の一滴も残さないように。

やがて商品の整理に回ってきた店員が、床に落ちている本を見つけました。

拾い上げようとしましたが、どうしたことかそれは、文庫大ほどの大きさなのにとても重く、持ち上げることすらできませんでした。

それに、まるで生きているように、あたたかい……。

あくせくしていると、店長がやって来ました。

床に落ちている本を見て頷き、「半日もすれば消化してしまうから、軽くなるよ」とアドバイスします。

そして、こう忠告もしました。

「いいかい。本棚に戻す時には、絶対にページを開いちゃいけないよ。開いたら、閉じちゃいけない」