「やっぱりさ、おかしいんだよ」


待ち合わせの駅。
出会い頭に真顔でそう呟くのは、オレのひいき目に世界一可愛いと思う彼女。

だけど。

どう考えてもおかしいのはお前だよ。

…って言えないのが、惚れた弱みだな。


仕方なく、何が?と先を促してやる。
彼女は、変わらず眉間に皺を寄せている。


「あのね、なんか違うの。しっくりしないっていうか…」

そう言って、オレをじっと見る。


…なんだ?

髭なら剃ったぞ?
風呂も入ってるし。
服もちゃんと洗濯してあるぞ?

いつもどおり、お前の右手をつないでるし…



「太った?」


ほわん、とした笑顔で。
失礼極まりないこと、サクっと言ってくれるな、お前は。


まあな、最近運動してないからな。
若干弛んできてるけどな。

一週間やそこらで、そんなに変わるかっっ。


ツッコミどころが満載な彼女だが。
そこがらしさでもあって。


「ほれ、いいから行くぞ?」

手を引っ張って歩きだす。


そんな俺の半歩後ろを歩きながら。
彼女が突然立ち止まる。



「わかった」


至極嬉しそうな笑顔で。
振り返ったオレを追い越して。


「今日はあたしが先に見つけたんだ」


いつもは。
キョロキョロ周りを見渡す彼女に声をかける。


…そんなことか。

ため息をつくオレを、彼女が振り返る。


「お裾分けできたね、今日は」

一瞬、胸がグッとくるような、幸せそうな顔で。

「どこにいても、ちゃんと見つけてくれるの。あれ、すごい幸せだもんね」


オレの目を、釘付けにする。


…だから、天然には適わない。

オレに見えない世界をお前は見てるんだろうな。

ほんとは今すぐ抱き締めたいとこだけど。
往来だから我慢しよう…


「ばかだな…」

わざと、盛大なため息をつく。


お前の、その笑顔を見れるなら。
どんなときでも、見つけてやるよ。


…と伝えるのは、二人っきりのときにでもとっておこう。