しかし、師匠は、依頼なら何でもやるんだな。
 
類は師匠に少々失望していた。
 
カメラを持った師匠を助手席に乗せて、田口婦人の旦那を追跡中であった。
 
彼は真面目に会社にいった後、真っ直ぐに、別宅に向かった。
 
会社から歩いて数分のマンションである。

「風邪で休んだ部下のお見舞いとかかもしれないですよ」
 
この仕事に乗り気じゃない類は言った。

「それでも相手が女の人なら、浮気の現場に見えなくもないでしょ?」
 
類は、依頼を受けたときのコスプレを変える暇がなかったらしい師匠を、じっとりと眺めた。

「それって、ずるくないですか?」

「探偵ってそういう商売なんだよ。」
 
そうかなあ。

違うと思うけど。