「空人?」
久しぶりに名前を呼んだ。
けれど、空人は動かない。
私は空人の正面に回った。
空人はスースーと寝息をたてて眠っていた。
―――何だよぉー――
一気に緊張が解けた私は一息吐いてそのまま空人の前の席に90度横向きで座った。
イスを引く音に反応する事もなく私の左真横に居る空人の寝息は、続いていた。
「空人、寝てんの?」
私の問い掛けに返事はない。
最近ずっと逃げ回っていたせいで、こんなに近くで空人を見るのは久しぶりだった。
私は起きる気配のない空人から視線を外して、自分の正面になった教室の窓に目を向けた。
閉めるのを忘れたのか、数十センチ開いた窓から入る風にカーテンが揺れる。
カーテンのレールや布の摩擦音、校庭からであろう運動部の声、吹奏楽部の楽器の音、聞こえるもの全てが体にそのまま浸透するような静けさだった。
私はもう一度、空人を見た。
そしてさっきまで頭の中で巡り巡っていた事をまた思い返した。