「ソラルリラには、今日も雨が降っています」
 既に薄暗くなってきた倉庫の中、誰とも無く呟いた私は、ため息をつく。
「……当たり前じゃない」 秘密基地、隠れ家、城、砦。
 たまり場の廃倉庫を指すときの大まかな名前はメンバーそれぞれがまちまちで、特にこれといった名称は決まっていない。
 しかし、私たち仲間内でこの場所に集まる時は、決まってこう言う。
『いつもの時間に“B地”へ』
 B地――つまり、大きくBの文字が描かれた廃倉庫のシャッター脇の壁に、子供が一人通れる程度だけ空いた穴。
 その中にまだ残ってるのは私一人だ。他のみんなは、とっくに家に帰ってしまった。
 見上げた空は黒が強くなってきた鈍色。いつもの通りの雨が、軒先から突き出た庇に当たっていつも通りに砕ける。
 そんな夕方。
 私は人を待っていた。「はぁ……もう帰ろ。流石にこれ以上待ってられないわ」
 外は、街灯や窓から零れる灯りが降り続く雨に反射して、見方によっては幻想的ともとれる。
 けれど、見慣れた私からしてみれば、そんな事を考えるその気持ちが幻想だと思う。
 雨は……敵だ。
「悪い、待たせた!」
 帰ろうと一歩踏み出した矢先、息を切らして穴をくぐり、待ち人がやって来た。
 噂をすればなんとやらだ。
「遅い! みんな帰っちゃったよ、ロップ」
「あちゃー。やっぱり間に合わなかったか」
 口ではそう言いながらも、まったく悪びれる様子がない。
 悪い友達と書いて悪友。レイモンド・ロップスは、まさに私の悪友だった。
「悪いなんて思ってないくせに」
「ははっ! バレてら。でもみんなじゃないさ。俺は、お前だけは待っててくれると思ってたし、その通りだったからな」
 ここまでこっ恥ずかしいことをサラリと言ってのけられると、最早起こる気にもならない。
「……もう。私だって今帰るところだったんだからね」
「でも、俺の事が気になってまた戻って来るんだろ?」
「――っ!」
 おそらく真っ赤になっているだろう私の繰り出した拳を、右に左に余裕しゃくしゃくの体で避けながら、ロップは両手を上げて降参の姿勢をとった。
「わかった、ごめんごめん。からかって悪かった。だから……その振りかぶった鉄パイプを下ろしてくれ!」
 危うくロップが、割られるのを待つ西瓜に見えるところだった。