「!」

「……」


そのことに驚いて思わずビクっと目を見開いたのもつかの間

ここより離れた位置から、
ただジッとこっちを見つめてくる翔の表情にいっさいの変化はなく、
突然一歩を踏み出したかと思うと

今もわたしの目を見据えて捕らえたまま、無言でこっちへと近づいてくる。


「っ、あ……」



ドク、ドクンッ



“だからわたしは翔のこと、別に何とも思ってない”



なにか

なにか言わなきゃ…


あのときの言葉

今すぐちゃんと謝りたい……!



「あ、あの翔っ…!さっきはごめ…」



内心、頭の中は動揺と緊張で真っ白になりながら

それでも何とかしてわたしはあのときの事を精一杯謝ろうとする。


そのまま必死で頭を深々と下げようとしたわたしに
なんと翔は、そんなわたしに対していっさい見向きもせず

どこかあからさまにそっけない態度でわたしの真横をスッ…と通りすぎたかと思うと

後ろにあるホテル内のロビーへとあっさり消えて行ってしまったんだ。


え……――?



「…あっ、高橋さん!
ちょうど良かった。今高橋さんいないか探してたところだったの」


その光景に、この場にいた全員が凍りついて
しばらく動けなくなっていたそのとき

ふと後ろから誰かに呼び止められる。


声をかけられるまま、反射的に後ろを振りかえると

そこにやって来ていたのはなんと、

今回の修学旅行ではまとめ役で、統率を受け持っている――小崎(オザキ)先生だった。


「以前から打ち合わせのつど、何度か説明はしてたけど
今夜、キャンプファイヤーのイベントで実行委員はその準備と手伝いがあるから。
部屋のチェックインが済んだあと、同じ委員の広瀬くんと一緒に
それぞれホテルのすぐ外にある空き地まで、手伝いに来てもらってもいいかしら?」

「……」

「高橋さん?」



聞こえてる?



とっさに振り向いて返事を返したものの、
先生の言葉も耳に入らず、ただボウ然と立ち尽くすわたしに

小崎先生が資料を手に持ったまま、小首をかしげる。


そのままポンと肩を軽く叩かれてしまい

その直後、思わずハッと我にかえったわたしは、しばらく戸惑いながらも
ぎこちなくこう頷いた。



「!あっ…、は、はい……」