少し、酔ったわね。嫌になる。 『逃げる』なんて選択した私を笑うかしら。『君らしくない』と一蹴されても良かったけど、それ程強くない自分が嫌で仕方ないから。 感情の向け方を知らない不器用で、優しい人。 あの男が、気付くのか気付かないのか見てみたかった。 確固とした地位が欲しいんじゃなくて、 誰かの真っ白な感情が向けられたいということに。 さあ、もうすぐ彼が来る。 赤い口紅を塗り直しして、いつものような笑顔を作って、 カラン、と開いたドアを振り返った。 「愁哉、遅いわよ」 Fin