―秘密―



冷たいマンホールの上。



鞄の中から、さっき道で渡されたちらしを出して、マンホールの上に敷く。



硬くて冷たくて汚いこの場所が、今の私にとって一番居心地の良い場所だった。




拓登はいない。


でも、絶対に来る。




昨日もここにいた。


拓登の居場所には、缶コーヒーが置かれていた。




その横には雑誌。


私が来ない日は、拓登はここで何を考えて何を歌っているんだろう。





私は、ちらしを移動させた。



拓登が昨日座っていた場所。



もたれられるからここの方がいいな。


それに、何だか拓登の温もりが残っている気がする。






ひとりになると泣いてしまうと思っていたのに、不思議と涙が出なかった。




きっとおっさんのせいだ。



おっさんと一緒に消えていく綾の背中が、とても遠くに感じた。