―ピンポーン
出てこない。
ちょうど良い所だった?
ごめんね。
私が邪魔でしょ?
せっかくの誕生日だから、朝までいない方が良かったよね。
「お、おう。早かったな」
お父さんがわざとらしくトレーナーに腕を通しながら出てくる。
どうせ着るなら着てから出て来い。
「早くて迷惑だった?」
目を合わせずに、靴を脱ぐ。
冷蔵庫からジュースを取り出している佳世さんと目が合った。
「もっと遅くて良かったのに」
聞こえないくらい小さな声で言ったつもりだと思う。
私は残念ながら耳が良い。
聞こえたくない音がいつも聞こえる耳なんだ。
「じゃあ、朝まで帰らねーよ」
家を飛び出した。
追いかけても来ない。
私を呼ぶお父さんの声だけが聞こえた。

