―目の前の現実―



2LDKの賃貸マンション。


5階の1番奥。




『家族』を演じている私達3人。


血のつながりのない微妙な関係。





私には生まれたときから父親がいなかった。


母から父親の話を聞く前に母はこの世を去った。


当時母が一緒に暮らしていたのがこの男。


『お父さん』と呼んではいるが父親とは思っていない。






「またこんな時間まで遊び回って。佳世さんが心配していたよ」





ソファで寝転んだまま、私のことを見ないでそう言った。



お父さんは、ガラステーブルに置かれた缶ビールに手を伸ばしたが、その指先はかすかに震えていた。





「心配している人が鼻歌歌うかよ」





お風呂場から聞こえる陽気な鼻歌。



佳世さんというのは、お父さんが付き合っている女性。


もう何人目だろう。