「おっさんがお父さんの服に水をかけたんだ。それを乾かす為にホテルに行って、そこで乾かしてもらってたって言ってた。その間、綾のお母さんとうちのお父さんは、ずっと話してて・・・・・・」
「そんなわけない」
「綾のお母さんが、相談を持ちかけたんだって。うちのお父さんに娘がいると知って、自分の娘のことでどうしていいかわからないって。そこで、お互いに反省して・・・・・・」
綾は瞬きひとつせずに、私を見つめていた。
「嘘だよ、そんなの」
「嘘じゃない。だって、お父さんは変わったもん。私の居場所をちゃんと作ってくれた」
綾の大きな瞳から涙がこぼれ落ちそうだった。
震える手を太ももの間に挟んだ綾は、首を横に振る。
「だって・・・・・・お母さん、私のことなんて全然考えてないもん」
「そう見えるけど、心の中では悩んでたんだよ。多分、綾のお母さんも変わったと思う。恋人とは距離を保った方がいいってうちのお父さんと話したんだもん」
私も綾も、ただおっさんの言葉を信じて、大事な家族のことを信じることができなかった。

