「橘先生?」 名前を呼ばれた事が哀しかった。 もう少し、こうして抱きしめていたかった。 流湖を好きだから抱きしめたんだよ。 そんな事、言えるか? 現実って残酷。 「ん?」 「えっと……」 それでも。 こんな状況でも。 惚けてみせるなんて、俺ってイタイ奴だよな。 そんな自分自身が笑える。 「あ。もしかして、からかってますか?」 俺の胸を押し返し、下から睨む。 その目には、まだうっすらと涙が溜まっていた。