「ちょっと試しに言ってみてよ、『きゃー』って」


「『きゃー』」


「そんな棒読みのじゃなくてさ…」


夕月さんはう~んと腕組みして考え込み始めた。


そこまでして私にきゃーって言わせたいのか。


何を思いついたか、じっと私を見つめる夕月さんに気づいて、ひやりと冷や汗が浮かぶ。


「…言っときますけど、何かしようったってだめですよ。素が濁点なんだから、ここで何したって濁点になっちゃいます」


「あ~、そっか。残念…」


何しようとしてたのよ!


あからさまに残念がる夕月さんを軽蔑の目で見る。


夕月さんはあきらめてマーカーを戦利品として部屋を出ていった。


気まぐれにちょっかいかけてくるの、やめてくれないかなぁ~


夕月さんの、初期の素敵優しいイメージがどんどん崩れてってるんですけど。



はぁ、とため息をつき机に向き直る。

ボールペンを手にノートをめくって、教科書の例文を写そうとした。


写そうと…




「ひゃああああ~!」




冷たいものが首筋に当たり、カメみたいに首を引っ込めた。


「なっ、なな何!?」