「えっ、んぐ!」


驚いて夕月さんを見上げた私の口を夕月さんは片手で塞ぎ、半ば引きずるようにして教室を出た。


「キャーッ!」

「イヤー!」


教室から女の子達の絶望の悲鳴が聞こえてきて、私は自分の未来に絶望した。


(絶対殺されるっ!)






外はもう暗く星がチカチカ光っている。

やっと解放されたのは、塾の建物から出てからだった。

口を覆っていた夕月さんの手が離れると同時に勢いよく文句を並べた。


「どうしてあんなことを!」


「何か困ることでも?」


夕月さんは人事みたいに全然気にしていない。


「困るよ…。私が明日、あの子達に何をされるか」


青ざめながら両頬に手をやると、その手をベリッと引き剥がされた。


「ちょっとなに…を……」


「大丈夫。俺がいるからね」


そう言って私を抱きしめた。


最初、何が起こったのかわからなかった私は、夕月さんの腕の中で目をぱちくりさせていた。

でも、目の前にある夕月さんの胸とか、私を包む体温とか――

そういうものを感じた瞬間、私は顔を真っ赤に染めて夕月さんの腕の中から慌てて逃げ出した。