秘密の鎖

パンのこげた匂いがする。

食べ物が散らばったテーブル。

床に滴るコーヒー牛乳。

隣で硬直している優也。

涙をこぼすお母さん。

何もかもがいやだった。

世界が灰色にしか見えなかった。


私はソファの上に投げ捨ててあった財布とケータイの入った鞄を掴むと、玄関に勢いよく向かった。


「お姉ちゃん!」


優也の泣きそうな声が聞こえたけど、無視してドアを開けた。



蒸し暑い空気が私を包む。


蝉の鳴き声がする。

いつも元気をくれる夏独特の青い空は、今の私には何の意味もなかった。


父の死、母の秘密、養女の話。



この三つをすべて抱えるには、私には少し重すぎた。


どこに行くあてもなかったけれど、私は思いきり駆け出した。