「…その母親代わりの人が好きだったんですか?」



「…当時は好きだと思ってたんだけど、今となってはあれはただの憧れか、ただ母性愛を欲していただけなのかもしれない。そんなふうに思ってる」





「…じゃあ西崎さんの心に今ある人は、…誰ですか――?」





「……」



西崎さんは沈黙する。



答えが見つからないのか視線をさまよわせて、やがて唇をきゅっと噛み締めた。



言えないとばかりに。





「…福嶋は、おまえの心には……誰か決まった人がいるのか?」





「え…」



逆に質問されて、直後に動揺が胸に拡がる。



「俺は…」



俺の心の中には…







…何でだ?





…何でなんだ?





訊かれた瞬間、思い浮かんだのは…





村瀬じゃなくて、










なぜか――…ユリカの顔だった。












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