どのくらいそこに突っ立っていたか分からない。



村瀬から電話が入ってようやく我に返った。



とっくの昔に俺のマンションに着いていた村瀬は俺が不在で中に入れなかったのだ。



俺はタバコを買いにコンビニに行っていたと説明して、慌てて全力で走って帰った。





「ごめんごめんっ。そういや鍵持ってなかったよな。うっかりしてた」



息を切らしながら鍵を開け、村瀬を中に招き入れる。



「そんなに慌てて帰って来なくても。
今度はあたしが西崎さんの帰りを待つ番だと思ってましたから」



申し訳なさそうに笑う村瀬を見て、自分の表情が一瞬にして強張ったのが分かった。



「…村瀬、その首」



「…え」



きょとんとする村瀬に玄関に置いていた鏡を覗き込ませる。



「…やだ、あたしも西崎さんといっしょのところ蚊に刺されてるっ」



――とぼけているようには見えなかった。



じゃあ村瀬はまだ意味が分からないのか?





その鬱血した痕が――キスマークだということに。





なら身に覚えがないうちにつけられたんだな、





―――…福嶋に。







福嶋のやつ、何考えてんだ?



なぜ村瀬にこんなことをするんだ?






『――西崎さん。俺は…



………いい加減なんかじゃないですよ』






もしかしてあれは…



本気で言った言葉だったのか――?












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