コツンと頭を合わせる。



いつもと違う匂いがする。



おそらくは西崎さん家のシャンプーの匂いだろう。



例えウチに帰れないやむを得ない事情があったとしても西崎さんの家にだけは行ってほしくなかった。



…って村瀬の相談に乗ってほしいって言ったの俺だよな。



くそっ…何であのとき気づかなかったんだよ。



今までずっと、村瀬をストーカーから守ってきたの俺なのに。



何であいつのSOSに気づいてやれなかったんだよ。



村瀬は…






村瀬は俺のSOSに気づいてくれたのに――








「お客さん、もうすぐ瑞穂町ですけど場所はどの辺になりますかねー」



タクシーの運転手が訊いてきた。



「ああ、えっと」



村瀬じゃないと分からないよな。



けど村瀬は熟睡中。



昨晩もほとんど寝てないし、今日は今日で夜中に病院に付き合わせたからな。



起こすのは忍びない。



それよりも…



西崎さんのもとへ村瀬を帰したくない。







このまま西崎さんのいない場所に村瀬を連れ去れたら…





このまま2人でどこか遠くへ行けたら…





このままずっと…





手を繋いで未来を歩いて行けたら――…










「すみません。やっぱ行き先変更します。



――春海ヶ丘に行ってください」