「…やっぱり一緒に行こうか? ちょっと待ってて。支度するから」



「あっ…ほんとに大丈夫ですから。大通りもすぐですしタクシーもすぐつかまると思うし。すぐ帰ってきますから心配しないで寝てて下さい」



「…なんか“すぐ”ばっかりだな(笑) 
まるで…まるでそのドアが“どこでもドア”になってるみたいだ」



俺の言葉に村瀬がふんわり笑う。



村瀬の笑顔は出会った頃と何も変わらない。



たんぽぽの綿毛のようにあちこちにふわふわ飛んでいって、行く先々で根を這って、やがてその周囲にいる人々に優しい笑顔を咲かせる。



ひとところに落ち着かないから、



いろんな場所に飛んで行くから、



だから…






…この手に捕まえておくことができない。