「こんな時間にどこか行くのか?」



「…え…あ…」



村瀬は気まずそうに一瞬うつむいてそのまま深々と頭を下げた。



「ごめんなさい西崎さん! あたし行かなくちゃならないんです!」



そう言って俺の横をすり抜ける村瀬の腕をとっさにつかむ。



「行くってどこへ?」



「あ…あの…だからその…し…知り合いが怪我をして…それで病院に」



「知り合いって…店の人間なのか?」



「…どうして」



怯えた目で俺を見る村瀬。



なぜ俺に対してそんな目で見るんだ?



「悪い。立ち聞きするつもりはなかったんだけど、怒鳴り声で目が覚めて、心配になってドアの前まで来たら…」



「…そうだったんですか。起こしちゃってすみません」



「いや、いいんだ。それより病院に行くんなら送って行こうか」



「西崎さん、あたしたちお酒飲んでますよ」



「ああ…そうだったな」



「大丈夫です、1人で。場所が分からないのでタクシーで行ってきます。傘をお借りしてもいいですか?」



「ああ、うん」



村瀬は俺の手をほどいてペコッと頭を下げると急いで玄関に向かった。