『…でも良かった。再会できて…。慧吾くん、もうとっくの昔にお店辞めてるものだと思ってた』



『あのあとお店を1軒任せてもらえることになって、そのままズルズルと居座ってる(笑) ほかにやりたいことなんてなかったし』



『…インテリア関係の仕事は? せっかく専門的なことを学校に通って学んだのに』



『…そんな甘い世界じゃないってこと、講師だったんだから分かってるだろ?』



陽菜は口をつぐむ。



陽菜だって直接的な関わりはない講師の道に進んだわけだし。



『…ここのが居心地がいいんだ。大きな会社に入ってサラリーマンやる頭も持ち合わせてないし。喧嘩っ早いからつねに上司のいる環境は肩が凝ってしかたない。俺にはこの仕事がいちばん性に合ってる』



『…こんなに素敵なレイアウトに仕上げる腕があるのに。これ慧吾くんのセンスでしょう?』



俺ははにかみながら小さくうなずく。



『…私は、小さいけど自分の思いのままに表現できるお店を持つことができたわ。これからはそこが私の居場所。私にとって居心地のいい場所にしようと思うの』



『うん。陽菜には第2の人生を謳歌してほしい』



『…そうね。帰ってこないかも知れない人を待つのはもうまっぴら。これからは待つんじゃなくてガンガン押しかけることにするわ(笑)』



『うん…』



あの頃に比べてだいぶ前向きになった陽菜を見て安心する。



『…慧吾くん』



『うん?』



『…ありがとう。



あの頃の私には……あなたのそばがいちばん居心地がよかった。



あなたが私の――…帰る場所だった』












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