『どうして? モテるでしょう? 学校でもモテまくりだったじゃない? 誰か好きな人はいないの?』



訊かれてふと村瀬の顔がよぎった。



何で村瀬が思い浮かぶ?



『あれ…この間(ま)はひょっとして?』



――違う、村瀬は部下だ。



大切な部下。



恋愛感情なんてあるはずがない。



たぶんここ最近、村瀬に心配なことがあったせいでそれでとっさに顔が思い浮かんだだけなんだ。



ただそれだけなんだ。



黙ったままだと陽菜に勘違いされそうだからこれにも首を横に振って応えた。



『え〜ホントに〜? 行き遅れちゃうよ〜?』



『女じゃあるまいし(笑) そんな焦らないよ』



『あっ…余裕こいてたらねー、40なんかあっという間だからね。40過ぎて薄らハゲになって加齢臭プンプンの慧吾くんなんか誰も相手にしなくなるんだから』



『はいはい;』



久しぶりにした陽菜との他愛のない話は6年前のドロドロした関係なんか思い起こすことのないほど和やかで心温まるものだった。