「サユリさん、もしかして出勤時間じゃないんですか?」



「あっ…そうだ忘れてた! じつは今日寝坊しちゃったのよアタシ! 急がなきゃ! じゃあね、は〜ちゃん。この続きはまた今度ゆっくりね! 修羅場になるだろうから覚悟しとい・て・ね?」



フッと耳の穴に生温い息を吹きかけられる。



身震いを通り越して寒気がした。



風邪がぶり返したかも;



「彼女お名前は?」



「む…村瀬綾乃です」



「あやのちゃん? ウフッ…アタシの348番あとにかわいらしい名前ね。

アタシは吉短小百合‐ヨシミジカ サユリ‐。

ココで働いてるから今度ゆっくり遊びにいらっしゃい。たっぷり可愛がってあ・げ・る(はぁと真っ二つ)」



サユリさんは怯える村瀬に般若のような形相で名刺を押しつけると、アパートの前に停まっていたタクシーに乗り込んで去っていった。



『あ・げ・る』の部分だけ完全に“男”に戻ってたし;



しかも『348番あとにかわいらしい名前ね』ってどんだけ貶(おとし)めりゃ気が済むんだよ。



「はぁ〜…」



何だかどっと疲れた(;-_-)



マジで嵐のような人だし。



つか毎度思うんだけど吉短小百合‐ヨシミジカ サユリ‐って…全国のサユリストに完ぺき袋だたきに遭うだろ。



「はぁ〜…」



もはやため息しか出て来ない。



つか空気悪い。



とりあえず部屋の中に入ろう。



「村瀬ちょっとそこ退け。鍵開けるから」







「うん。…………………は〜ちゃん」







「……。」



何やら思惑ありげな視線を向けてくる村瀬に心の中で舌打ちする。






――くそっ…

鍵開けたらソッコー玄関で犯ス!!!!!