「――ごちそうさまでした」



「また気軽に遊びに来てね? スプモーニご馳走するから」



「はい。あの、お料理もすごく美味しかったです。ごちそうさまでした」



あたしはぺこりとお辞儀をして西崎さんとともに佐渡さんのお店を後にした。



帰りは逆方向だから対向車線のタクシーをつかまえるために歩道橋をのぼる。



西崎さんの数歩あとを歩くあたしの足どりは重い。



初めて知った西崎さんの衝撃的な過去。



赤裸々な告白。



まだ頭の整理がつかない。





『…俺は恥ずかしい話、恋愛と呼べる恋愛をこの年になるまで一度もしたことがないし、特別誰かを心底愛したこともない』





――特別誰かを心底愛したこともない。



5歳で両親が離婚し、母親に捨てられたという西崎さん。



それも少なからず影響しているのか、女性はいつか自分を置いて去っていくものだと思っているんだそうだ。



だから最初から入れ込まないし本気にもならない。



そうすることで去っていったときの喪失感から傷つかなくて済むから。



それを聞いたとき、西崎さんの心の闇の深さに気後れした。



あたしなんかが立ち向かって行けるはずがないってひどく打ちのめされた。



それと同時に、たとえ想いが通じ合っても、心底愛してはもらえないという不安が襲ってくる。



あたしは…こんなことでくじけてしまうほど、その程度の想いしか西崎さんに対して抱いていなかったんだろうか――…?