──side*麻帆──
「荒ちゃん…」
ギュッと握りしめる手も、汗と緊迫感で締め付けられる。
9回裏、1アウトでランナー2塁でバッターが荒ちゃん。まさか9回裏で荒ちゃんが回ってくるなんて。
「麻帆ちゃん、大丈夫?顔…赤いよ?」
実貴さんが心配そうな顔で見てきた。あたしは大丈夫と微笑んだ。
「無理しないでね。康也くんが見たら、きっと心配で飛んできちゃうよっ」
実貴さんの冗談交じりな言葉にふふっと笑った。荒ちゃんは心配なんてする間もないよ。今は野球しか見えてないんだから。
あたしが顔が赤いのは、きっとこの剣道着とジリジリ照りつくす太陽のせい。
日焼け止めも塗らず、夏の格好もせず飛び出してきたから、顔が火照ってるんだ。
もしかしたら…熱かも。いや、熱でもあたしは帰らない。この試合が終わるまでは抜け出さないんだから。


