1球目はボール。9回裏の試合だからか、スタンドからの声援がさっきまでの倍以上。
「打てよ…永松」
祈るように永松を見つめる。
「お前もだぞ、荒嶋」
すると監督が隣に来た。これもまた珍しい。俺は背筋を伸ばした。
「荒嶋にも、必ず打順は回ってくる。心構えしとくんだな」
「はい。…あの、監督」
「ん?何だ?」
「ありがとうございました」
永松がありがとうと言いたくなった意味がわかる気がした。監督が居なかったら、俺たちはここにいない。
プライベートを割いて指導をしてくださって、本当に感謝しています。
監督の目を見ると、うっすらと光るものが浮かんでいた。鼻の奥がツンとした。
「…試合を見ろ」
顔を見られたくなかったのか、顔を背けた監督だった。俺が思わず笑った瞬間、
「ストライク!」
という声が聞こえた。


