「あたし、左目が見えないんだよね」
あたしは目を見開いて実貴さんを見た。と同時に電車が止まり、老夫婦が再びあたし達に一礼をして降りた。
「それは…天然じゃなくて…」
「本当なの。昨年の文化祭で麻帆ちゃんとぶつかったのも、左目が見えてなかったから。今日だって電柱に気づかないでぶつかりそうになったでしょ?」
あれは天然だと思っていた。だけど…
「でも気にしないで!たまにあるだけだから」
「でも…」
「そんな『見えないんだ』オーラ出さないでよっ。余計悲しくなっちゃう。だから普通でいて?普通にあたしと接して」
衝撃的なことを知っちゃって、あたしは少し思考回路が遅れた。だけどあたしは決めた。
「はい、わかりました。じゃあ今日はあたしが実貴さんの左目になりますねっ」
実貴さんは涙目になりながらあたしに微笑んだ。


