大好きな君にエールを






『わかりました』と返事をし、ボタンの近くにいる実貴さんに声をかけた。


「実貴さん、あの下車をされる方がいるので、そこのボタンを押してもらえますか?」


実貴さんは笑顔で了承してボタンを押そうとした。だが…


「麻帆ちゃん、ここにボタン無いよ?」


実貴さんが意外な言葉を発した。あたしにはボタンは見えていた。『冗談ですよね』と言っても、実貴さんからは『無いよ』の返事。


あたしは、あたふたしている老夫婦が目に入り、自分でボタンを押した。


電車内に下車を呼びかける放送が流れる。ホッとした老夫婦はあたしを頭を下げた。


「ごめんね、麻帆ちゃん…」


一方で、実貴さんは落ち込んでいた。なんだか思いつめているみたい。


「いいですよ。次からは気を付けてくださいね?見えてるんですからっ」


「ううん…見えないの」


思いもよらなかった言葉だった。